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高麗人参の水耕栽培

高麗人参は、高い健康効果や美容効果をもつ薬草として古くから珍重されてきました。高麗人参は高い効果をもつ一方で、収穫までに通常4-6年間かかり、病気や虫にも弱いため、栽培に長い時間と手間がかかります。こうした問題を解決するための栽培法として、高麗人参の水耕栽培が注目されています。水耕栽培は、土を使わずに水と肥料だけで栽培する方法です。高麗人参の水耕栽培は可能なのでしょうか。

土を必要としない水耕栽培

水耕栽培とは

水耕栽培は、土を使わずに水と液体肥料で植物を育てる方法です。ヒヤシンスなどの球根の根を水につけて栽培するインテリアがありますが、あれも水耕栽培の一種です。
近年では、大規模な設備を使用した「植物工場」で水耕栽培を行い、屋内で野菜を大量生産する方法が盛んに行われています。

水耕栽培に適している植物には、リーフレタスやシソ、ケールなどの葉野菜や、パセリやバジル、パクチーなどのハーブ類が挙げられます。以前は、大根や人参などの根菜類の水耕栽培は不可能といわれていましたが、現在では根菜類の栽培も行われています。

従来の土を使う栽培は土耕栽培といい、良い土壌をつくるのに経験と労力が必要です。水耕栽培では土づくりの必要がなく、屋内でも栽培できるため、季節や天候に左右されずに安定した品質の野菜をつくることができます。

水耕栽培のメリット

水耕栽培には、以下のようなメリットがあります。

・野菜に付着する虫や菌が少なく、農薬を使用せずに栽培できる
・屋内で栽培できるため天候や季節に左右されない
・機械による自動制御が可能
・作物の質が安定している
・土地面積あたりの収穫量が多い
・育つのが早い
・連作障害がなく、収穫後すぐに次の栽培が可能
・土づくりの必要がない
・栽培技術を標準化でき、労働者の熟練が必要ない

高麗人参は栽培に通常4-6年間かかるほか、土壌の質や気温などの育成条件が厳しい植物です。また、病害や虫害に弱く、農薬や化学肥料も苦手としています。水耕栽培はこうした厳しい育成条件をクリアできるため、高麗人参の大量生産が可能になるのではと期待され、研究や試行が盛んに行われています。

水耕栽培のデメリット

多くのメリットの一方で、水耕栽培には以下のようなデメリットもあります。

・大規模な設備が必要なため初期投資に多額の費用がかかる
・電力を使用するため土耕栽培に比べて生産コストが高い
・良質な水が大量に必要
・生産物の味や成分量が土耕栽培に比べて劣る場合が多い
・水耕栽培が困難な植物が多い

高麗人参は薬用植物であり、含まれている有効成分の量やバランスはとても重要です。土耕栽培に比べて有効成分が少なくなりがちな水耕栽培は、この点が大きな問題です。
また、根菜類は、根の全体を水につけていると腐ってしまうため、細い根だけが水につかるように水位を細かく調整する必要があります。根の部分を使用する高麗人参も、こうした細かい管理が必要です。

高麗人参の水耕栽培は研究段階

・水耕栽培された根は小さい
高麗人参は、栽培がとても難しい植物です。水耕栽培にも課題が多く、未だ本格的な生産には至っていません。水耕栽培に成功したとする事例はいくつかありますが、どれも収穫された根は小さいものばかりです。
高麗人参は通常4-6年間栽培されたものが収穫されます。これは1-3年目の小さな根は、高麗人参の効果の中心となる有効成分ジンセノサイドの含有量が少ないためです。今までのところ水耕栽培で収穫されている高麗人参の根はどれも小さく、健康効果をもたらす有効成分の量も少ない傾向にあります。

・有効成分の含有量が少ない
現在までのところ、水耕栽培された高麗人参が、医薬品に関する品質規格である日本薬局方に合格したという報告はありません。第十七改正日本薬局方では、高麗人参の成分に関してジンセノサイドRg1とジンセノサイドRb1の2成分しか規定されていませんが、この2つの基準すらクリアできていないのが現状です。

このように、高麗人参の水耕栽培は、未だ本格的な生産には至っていません。水耕栽培によって質の高い高麗人参を大量に生産するには、クリアすべき課題が多く残っており、今後の研究が期待されています。

高麗人参の水耕栽培の課題

高麗人参は栽培がとても難しい植物です。高麗人参の水耕栽培を本格的に行うには、クリアすべき課題が多く存在しています。

種の確保

・高麗人参の種は貴重
水耕栽培では、季節を問わず一年中作物を育てることができます。このため、水耕栽培は大量生産が可能であり、生産量の多さは水耕栽培の主要なメリットのひとつです。しかし、大量生産には大量の種が必要です。

高麗人参の種はとても貴重です。土耕栽培で4年程度経過した苗から、1年で30粒程度しか採取することができません。長くても6年目には高麗人参が収穫されるため、1本の苗から多くても3年間で90粒程度の種しか採れません。
また、高麗人参は発芽が難しいことで知られ、ほかの植物に比べて発芽率が低く、種が採れる4年目まで育つものは限られています。

・水耕栽培でも土耕栽培で採取された種が使われている
高麗人参の水耕栽培を行っている事例は数多くありますが、種を採取できたとする報告はありません。現状では、土耕栽培で採取された種が水耕栽培で使用されています。
水耕栽培による高麗人参の大量生産を行うには、種も水耕栽培で確保することが重要です。しかし、今のところその段階には至っていません。

・高麗人参の種は保存が難しい
高麗人参の種は保存が難しいことでも知られており、冷凍保存ができません。一旦冷凍した種は発芽率が極めて低くなり、薬品処理などを行ってもほとんど発芽しません。また、冷蔵庫などで低温を維持して保管していても、時期が来れば発芽してしまい、発芽しないものは枯れて死んでしまいます。

水耕栽培は季節を問わず栽培ができるのが大きなメリットです。しかし、これは大量の種を保存しておき、好きなときに使用できてこそ可能になる栽培方法です。
高麗人参の種を発芽可能な状態のまま長期保存する方法は、未だ確立されていません。この問題が解決されなければ、高麗人参の大量生産は困難です。

発芽技術

・高麗人参は発芽が難しい植物
高麗人参は、発芽が難しい植物として有名です。日本では豊臣秀吉の軍師だった黒田官兵衛が高麗人参の発芽や栽培法を研究し、それ以後も盛んに研究が行われました。しかし、実際に発芽に成功したのは約140年後の徳川吉宗の時代です。高麗人参の発芽がとても難しいことが、こうした歴史からも分かります。

・大量生産には発芽技術の確立が必要
通常、水耕栽培は屋内で行われ、温度や湿度の調節によって季節を問わず栽培が可能です。しかし、年間を通して植物の栽培を行うためには、任意の時期に発芽させる技術が不可欠です。また、水耕栽培に雑菌は厳禁であり、発芽も土を使用しない方法で行われるのが理想的です。

長年の研究によって、高麗人参の種を土壌で発芽させた場合はある程度の発芽率が確保されています。しかし、土壌を使用しない発芽技術は確立されていません。また、任意の時期に発芽させる方法も見つかっていません。
本格的な高麗人参の大量生産を行うには、土を使わず、任意の時期に発芽させる技術の確立が必要であり、更なる研究が期待されています。

・苗を使用している例も多い
高麗人参の水耕栽培を研究している機関の多くは、種からではなく、土耕栽培で育てた苗を移植して水耕栽培を行っています。この場合は畑の土づくりなどの手間がかかり、水耕栽培の多くのメリットが失われてしまいます。
また、水耕栽培では病原菌の混入を避ける必要があります。土壌には多くの雑菌が存在しており、土耕栽培で育てた苗を移植する場合は、洗浄や消毒などの手間もかかります。

菌根菌がいない状態での栽培

特定の植物の生育には、菌根菌と呼ばれる菌類が関係しています。高麗人参の生育にも菌根菌が深く関与していますが、水耕栽培では菌根菌を活用することができません。

・植物と共生する菌根菌
菌根菌とは、植物の根に侵入して共生体である菌根をつくり、植物と共生する菌類のことです。菌根菌は、土壌のリン酸や窒素を吸収し、菌根を通じて宿主である植物に供給します。その代わりに、植物は光合成によって生産した炭素化合物などを、根の分泌物によって菌根菌に提供します。
菌根菌は植物の成長を促進する効果があり、菌根菌を取り除いた土で栽培した植物は生育が悪くなることが確認されています。

・高麗人参の生育に菌根菌が関係している
高麗人参の生育に関しても、菌根菌が深く関係しています。
高麗人参の根からは、ムシゲルと呼ばれる粘液が分泌されています。ムシゲルには根を乾燥から保護する働きや、土壌内で根が育ちやすいようにする潤滑作用のほか、菌根菌などの微生物を根の周辺に集める作用があります。

ムシゲルの働きによって菌根菌が高麗人参の周囲に集まり、菌根菌は菌根をつくって高麗人参と共生します。九州大学の研究では、5種類の菌根菌の胞子や菌根が、高麗人参の根やその周囲から発見されており、高麗人参の生育にも菌根菌が深く関わっていることが確認されています。

・菌根菌は高麗人参の成分を左右する
菌根菌は、土壌のリン酸や窒素を吸収して植物に供給します。高麗人参は生育の過程で土の養分を根こそぎ吸い取ってしまうといわれており、こうした栄養分の吸収には菌根菌の働きが関係しています。

古くから高麗人参の産地として有名な土地で生産された高麗人参には、高麗人参特有の成分であるジンセノサイドが多く含まれており、その種類も豊富です。土壌に含まれる菌根菌の種類はその土地によって異なるため、こうした産地による成分量の違いにも、菌根菌が関係していると考えられています。

また、森や山に自生している高麗人参は、畑で栽培されたものと比べて薬効がとても高いといわれています。森や山の土壌には畑に比べて多くの菌が存在しており、こうした薬効の差に影響を与えています。

・水耕栽培では菌根菌が生かせない
水耕栽培は土を使わないため、根の周囲に菌根菌は存在していません。高麗人参と共生関係にある菌根菌は胞子で増殖するため、水耕栽培に導入するのは困難です。

菌根菌は高麗人参に窒素やリン酸を供給するため、高麗人参の成分量に大きな影響を与えます。水耕栽培では菌根菌の作用を生かすことができず、その結果として、高麗人参に含まれる栄養素も少なくなってしまいます。

有効成分の量

葉野菜などの場合でも、水耕栽培は土耕栽培に比べて栄養素が少ない傾向にあります。生育に菌根菌が関係している高麗人参は、とくに成分量の差が大きいと考えられます。

高麗人参は薬用植物であり、有効成分を身体に取り入れて、健康や美容に役立てるために摂取するものです。このため、有効成分の含有量は極めて重要です。高麗人参の大量生産が可能になっても、含まれる成分の量が少なければあまり意味がありません。
水耕栽培の本格化には、成分量が豊富な高麗人参を育成できる栽培法の確立が必要です。

有効成分のバランス

高麗人参は、有効成分の量だけでなく、そのバランスがとても重要です。高い効果をもつ高麗人参には、有効成分がバランス良く含まれています。

・高麗人参はジンセノサイドのバランスが重要
高麗人参の高い効果の中心となるジンセノサイドには、30以上の種類があります。これらは神経の興奮を抑えるジオール系や、神経を刺激するトリオール系、抗炎症作用や免疫力を高める作用のあるオレアノール系の3つに大きく分類されます。

ジオール系とトリオール系は逆の作用をもっていますが、これらは相殺されることなく機能します。神経が過度に興奮しているときにはジオール系が強く働いて興奮を抑え、神経の働きが鈍っているときにはトリオール系が強く作用して神経を刺激します。
こうしたジンセノサイドの作用により、高麗人参は神経の働きを正常化し、身体を健康な状態に保ちます。高麗人参に含まれているジンセノサイドのバランスが悪いと、こうした高麗人参の効果が十分に発揮されません。

・高麗人参の部位によって成分のバランスが異なる
一般的に使用される根のほか、高麗人参の葉や実の部分にもジンセノサイドが含まれています。しかし、実や葉にはトリオール系のジンセノサイドが多く含まれる一方で、ジオール系は少量しか含まれていません。
ジンセノサイドが十分な効果を発揮するには、成分のバランスが重要です。このため、高麗人参の実や葉は、一般的に漢方薬や食品として利用されていません。

・栽培年数でも成分のバランスが変化する
ジンセノサイドのバランスは、栽培年数によっても変化します。1年根や2年根といった栽培年数の少ない根はジオール系の割合が大きく、栽培年数が増えるとともにトリオール系の比率が増えていきます。ジンセノサイドのバランスが最も優れているのが、栽培年数が長い6年根です。

・短い期間の栽培でも有効成分のバランスが確保できるか
水耕栽培のメリットのひとつとして、栽培期間の短縮があります。しかし、短い期間で収穫できても、ジンセノサイドのバランスが悪ければ、摂取しても高麗人参本来の効果が発揮されません。

高麗人参の水耕栽培を行っている企業の中には、短期間でジンセノサイドを抽出できたと宣伝する企業もあります。しかし、健康効果の面でみれば、バランスの偏った成分を抽出してもあまり意味がありません。

高麗人参は健康のために摂取するものです。収穫量よりも、含まれている成分の量やバランスが良く、効果が十分に得られることが重要です。水耕栽培された高麗人参が本格的に利用されるためには、短い栽培期間でも有効成分のバランスが良い高麗人参を収穫できる栽培法を見つけだす必要があります。

まとめ

水耕栽培は土を使わずに水と肥料だけで植物を育てる方法で、高麗人参の水耕栽培の研究も行われています。高麗人参は栽培がとても難しい植物であり、水耕栽培においても、種の確保や発芽技術に大きな課題があります。
また、水耕栽培は、有効成分の量やバランスが従来の土耕栽培に比べて劣る傾向にあります。高麗人参は薬用植物であり、水耕栽培された高麗人参が本格的に利用されるためには、有効成分を高める栽培技術の確立が必要です。
高麗人参の水耕栽培は、今後の更なる研究と技術開発が期待されています。

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