高麗人参とエゾウコギは何が違うの?
古くから効果の高い薬草として珍重されてきた高麗人参は、ウコギ科の植物です。同じウコギ科で、近年サプリメントの材料として注目されている植物に「エゾウコギ」があります。高麗人参とエゾウコギには、含まれる成分や利用法にどのような違いがあるのでしょうか。両者の違いについて解説します。
高麗人参とエゾウコギ
高麗人参とエゾウコギは、ともにウコギ科の薬用植物ですが、類縁関係は薄く、植物としての外見も異なります。
高麗人参とは
高麗人参は、ウコギ科トチバニンジン属に分類される多年草です。「オタネニンジン(御種人参)」や「朝鮮人参」とも呼ばれます。
原産地は中国東北部から朝鮮半島にかけての地域で、こうした地域やロシア沿海州にかけての比較的寒冷な地域に自生します。日本には自生しておらず、朝鮮半島から輸入した種を使って栽培が可能になったのは江戸時代のことです。
高麗人参は、根の部分が生薬として古くから利用されてきました。茎や葉の高さは数十cm程度で、夏にはきれいな赤い実をつけます。
エゾウコギとは
エゾウコギは、ウコギ科ウコギ属に分類される落葉低木です。多年草である高麗人参とは異なり、高さが2-3mに達することもあります。7-8月頃に白い花が咲き、9-10月頃に直径5-6mmの黒い実をつけます。
エゾウコギは、黒竜江省・吉林省といった中国東北部や、ロシアのアムール州・サハリン州、日本の北海道東部といった寒暖の差が激しい寒冷地に自生しています。
「蝦夷(えぞ)」は、北海道の先住民族であるアイヌの居住地を指した言葉です。蝦夷に生えているウコギなので、エゾウコギという名前がつけられました。
中国ではウコギ科の植物が「五加」と呼ばれ、エゾウコギにはトゲがあるため「刺五加(しごか)」と呼ばれます。また、根皮が生薬として使われるため、「五加皮(ごかひ)」とも呼ばれます。
ロシアの寒冷地に自生し、根の外見が高麗人参の根と似ていることから、エゾウコギは「シベリア人参」とも呼ばれます。しかし、高麗人参はトチバニンジン属の植物であり、両者の類縁関係は希薄です。含まれている有効成分の種類も大きく異なります。
高麗人参とエゾウコギの歴史
高麗人参が日本でも古くから貴重な薬草として盛んに利用されてきたのに対して、エゾウコギが注目を集めるようになったのは比較的最近のことです。
高麗人参の歴史
中国では古代から貴重な薬草として利用された
高麗人参は、有史以前から薬草として利用されてきたと考えられています。
約2000年前に記された中国最古の薬物書『神農本草経』には、高麗人参についての記載があり、内臓機能を補う効果や精神を安定させる効果のある最高ランクの薬とされています。これ以降の中国医学の薬物書にも高麗人参は主要な薬として記載されており、古くから現在に至るまで、高い効果をもった薬草として珍重されてきました。
日本でも江戸時代に大流行
日本に高麗人参が伝来したのは奈良時代のことです。高麗人参は日本に自生していないため、専ら朝鮮半島からの輸入品が利用されました。
高麗人参は、江戸時代に漢方薬として大流行しました。江戸幕府は高麗人参の栽培を研究し、第8代将軍吉宗の時代に栽培に成功しました。江戸幕府は高麗人参の栽培を推奨し、種を全国の藩に配布しました。
明治時代に入って西洋医学が一般化すると、高麗人参の需要は大きく低下しました。近年、健康志向の高まりや東洋医学が見直されたことにより、高麗人参の需要が再び高まっています。
エゾウコギの歴史
中国では古くから利用された
『神農本草経』には、ウコギ科の根皮である五加皮についての記載があり、体力回復や腹痛などに効果的な薬として紹介されています。このことから、エゾウコギは古くから漢方薬として利用されていたと考えられています。
また、16世紀に記された薬学書『本草綱目』には、エゾウコギを意味する刺五加についての記載があり、滋養強壮効果や精神を安定させる効果、老化を遅らせる効果などがある薬とされています。
日本では効果が知られていなかった
『本草綱目』は江戸時代の初期に日本にも伝来し、漢方医学の発展に大きな影響を与えました。しかし、そこに記載されていたエゾウコギについての知識は、一般には広まりませんでした。
江戸時代中期の米沢藩藩主である上杉鷹山は、中国原産のヒメウコギの栽培を推奨しました。ヒメウコギの根皮も東洋医学の薬である五加皮として利用されますが、薬として利用するために栽培が推奨されたわけではなく、葉や新芽を緊急時の食料とするためでした。
北海道の先住民族であるアイヌは、民間薬としてエゾウコギを利用していたといわれています。しかし、本州に住んでいた日本人はエゾウコギの薬効を知りませんでした。明治維新以降に北海道の開拓を行った人々は、エゾウコギを邪魔な雑草と考えており、見つけ次第駆除していたと伝えられています。
ロシアの研究で注目を集める
エゾウコギの効果が注目を集めたのは、1960年代以降のことです。旧ソ連(ロシア)の科学アカデミーがエゾウコギの研究を1960年頃に始め、1962年には強壮剤としての使用が承認されました。1966年に、旧ソ連科学アカデミーの博士がエゾウコギに高い効果があるという論文の発表を行い、エゾウコギの効果が注目されるようになりました。
さらに、1980年のモスクワオリンピックで、エゾウコギが世界に知られるようになりました。このオリンピックでは旧ソ連の選手がエゾウコギのエキスを摂取して、ほかを圧倒する数のメダルを獲得しました。エゾウコギが選手の疲労感を軽減して好成績につながったとされ、エゾウコギはドーピング規定にも抵触しないことから注目を集めました。
同じ1980年には、スポーツ選手に対するエゾウコギの効果についての論文が権威ある科学雑誌に掲載され、主にスポーツ界を中心にエゾウコギの人気が高まりました。
日本でも1990年代以降、スポーツ選手や宇宙飛行士が体力増加効果を求めてエゾウコギを利用しています。また、近年ではエゾウコギのエキスを使ったサプリメントやお茶が販売されるようになり、その健康効果が改めて注目されています。
含まれている主な成分
高麗人参とエゾウコギは同じウコギ科に属する植物ですが、有効成分には大きな違いがあります。
高麗人参の成分
高麗人参に含まれる特徴的な成分が、特有のサポニンであるジンセノサイドです。サポニンは植物に含まれる化合物で、血行を促進する作用や血液中の脂質を減少させる作用、活性酸素を中和する抗酸化作用などがあります。
高麗人参には、ストレスを軽減して身体全体の調子を整える効果や、免疫力を高める効果、美肌効果やダイエット効果などの多くの健康効果や美容効果があります。ジンセノサイドは、こうした高麗人参の効果の中心となる成分です。
高麗人参には、ジンセノサイド以外にも健康や美容に役立つ成分が含まれています。
高麗人参にはアミノ酸のアルギニンが多く含まれ、アルギニンには成長ホルモンの分泌を促進する効果や、男性機能を高める効果などがあります。また、高麗人参にはビタミンB群を中心としたビタミンや、鉄・亜鉛・カリウム・マグネシウムといったミネラルが豊富です。
こうした有効成分が体内で複合的に働くため、高麗人参には高い健康効果や美容効果があります。
エゾウコギの成分
エゾウコギの代表的な成分に、エレウテロシドがあります。エレウテロシドは糖を含む化合物で、エレウテロシドAからGまでの7種類があります。エゾウコギの効果については未だ研究段階ですが、特にエレウテロシドBとエレウテロシドEの研究が盛んです。
エレウテロシドには、ストレス軽減効果や免疫力を高める効果、疲労回復効果などがあります。
エレウテロシド以外の主な有効成分としては、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸や、血行促進効果や抗炎症作用のあるイソフラキシジンが挙げられます。また、ゴマに含まれていることで知られるセサミンや、ポリフェノールの一種であるケルセチンも少量含まれています。
近年の研究では、ピノレジノール・ジグルコサイドと呼ばれる、体内で女性ホルモンと似た働きをする成分が含まれていることも明らかになっています。
さらに、エゾウコギには、ビタミンB1・ビタミンB2といったビタミン類や、鉄・マグネシウム・亜鉛などのミネラルも含まれています。
主要な有効成分は異なりますが、高麗人参と同じく、エゾウコギも身体の健康増進に役立ちます。
効果・効能
高麗人参とエゾウコギに含まれる成分には大きな違いがありますが、健康効果には似たものが多くあります。その一方で、高麗人参が美容用品などに利用されているのに対し、エゾウコギの美容目的での利用はあまり行われていません。
高麗人参とエゾウコギはアダプトゲン
高麗人参とエゾウコギは、ともにアダプトゲンとされ、特に高麗人参はアダプトゲンの代表例とされています。
アダプトゲンとは、精神的・肉体的ストレスへの抵抗力を高めて、標準値からずれた生理機能を正常化する働きのあるハーブのことです。例えば、高麗人参には血圧を調整する作用があり、高血圧や低血圧の人を正常な血圧に戻す働きがあることが、研究で確認されています。
高麗人参とエゾウコギは、アダプトゲンとして機能してストレスを軽減し、身体の機能を正常に保ちます。
高麗人参の効果
高麗人参の効果は多岐にわたります。
疲労回復、血行促進、ストレス軽減、内臓の調子を整える効果などがよく知られており、生活習慣病や自律神経失調症などの病気の予防・改善効果もあります。また、脳機能を活性化する成分が含まれているため、認知症にも効果的といわれています。
高麗人参は、更年期障害・便秘・冷え性・むくみ・骨粗しょう症などの女性特有の悩みにもとても効果的です。さらに、古くから男性の精力増強に役立つことで知られており、高麗人参の成分は男性機能の向上や男性不妊の改善に効果的です。
高麗人参は男女問わず、すべての人の健康に役立つ薬草です。
さらに、高麗人参には美肌効果やダイエット効果など、高い美容効果があります。このため、高麗人参を使った美容液やクリーム、シャンプー、石鹸なども販売されています。
高麗人参は古くから健康や美容に役立つ薬草として珍重されてきたため、長年の経験や研究によって数多くの効果が確認されています。
エゾウコギの効果
エゾウコギには滋養強壮効果があるほか、強い抗ストレス効果があります。
エゾウコギの研究が本格的に行われるようになったのは、1960年代以降です。このため、高麗人参に比べて研究の数や知識の蓄積が少なく、今後の研究が期待されています。
研究などで確認されているエゾウコギの主な効果をご紹介します。
β-エンドルフィンの分泌促進
エゾウコギの主要な有効成分エレウテロシドには、脳内物質であるβ(ベータ)-エンドルフィンの分泌を促進する作用があります。β-エンドルフィンには鎮痛作用や幸福感をもたらす作用があるため、脳内麻薬ともいわれます。なお、麻薬といってもβ-エンドルフィンが身体に悪影響を及ぼすわけではありません。
β-エンドルフィンには、免疫細胞の働きを活性化して免疫力を高める作用や、運動などによる疲労感を軽減する作用があります。また、脳が幸福感を感じるためストレス軽減に効果的で、思考力や記憶力を向上させる効果もあります。
生活習慣病の予防
エゾウコギに含まれるエレウテロシドやイソフラキシジンには、身体の血行を促進する作用があります。また、エレウテロシドやクロロゲン酸などの成分には、活性酸素を中和する強い抗酸化作用があります。活性酸素は血管の細胞や血液中の脂質を酸化させ、生活習慣病の原因となる物質です。
これらの成分の働きにより、エゾウコギは高血圧や動脈硬化といった生活習慣病の予防・改善に役立ちます。
女性ホルモンの働きを助ける
エゾウコギに含まれるピノレジノール・ジグルコサイドは、女性ホルモンと似た生理作用をもっています。このため、エゾウコギは女性ホルモンが不足することで起こる更年期障害の症状を緩和する効果があります。
また、女性ホルモンは骨の密度にも関係しており、女性ホルモンが減少する更年期以降の女性は、骨粗しょう症の発症率が高くなります。女性ホルモンの働きを助ける効果により、エゾウコギには骨の形成を補助する効果があることが、研究で確認されています。
このように、高麗人参とエゾウコギの成分は異なりますが、健康効果には似たものが多くあります。その一方で、エゾウコギの美容効果の研究や利用はあまり行われておらず、この点は高麗人参と大きな違いがあります。
主な利用方法
高麗人参は古くから人の生活に広く利用されており、利用法も多岐にわたります。エゾウコギはサプリメントやお茶としての利用が中心です。
高麗人参の利用法
高麗人参は古くから薬として利用され、数多くの漢方薬の処方に使用されています。
その高い健康効果から、粉末・錠剤・ペースト状などのさまざまな形態の製品が開発・販売されており、サプリメントの材料としても一般的に利用されています。
乾燥加工した高麗人参や生の高麗人参は、煎じてお茶として飲まれるほか、お酒に漬けて高麗人参酒の材料になります。
また、生の高麗人参は、野菜のように料理の材料としても利用されます。韓国料理で主に使用されるほか、日本では天ぷらや漬物にも使われています。
高麗人参のエキスを使った食品も韓国では一般的で、栄養ドリンクやガム、飴などの製品が数多く販売されています。
さらに、高麗人参の成分には美肌効果などの美容効果があるため、高麗人参のエキスを使った美容液やクリーム、シャンプーなどの美容用品が販売されています。
エゾウコギの利用法
エゾウコギは、エキスを使ったサプリメントやドリンク、お茶などの製品が販売されています。
エゾウコギは日本で利用されてきた歴史が浅いため、ほかの多くの生薬と混ぜて利用される漢方薬の処方はあまり知られていません。高麗人参とエゾウコギを混ぜたものが販売されている程度です。
生薬としてのエゾウコギは、煎じてお茶として飲むのが一般的です。
また、高麗人参と同様に、お酒に漬けてエゾウコギ酒をつくる利用法もあります。エゾウコギ酒は、ストレス軽減や疲労回復、男性機能の向上に効果的な薬用酒とされています。
江戸時代にウコギの栽培が推奨された山形県などでは、ウコギの新芽を炊きたてのご飯に混ぜた「ウコギご飯」が郷土料理として食べられています。しかし、こうした食用にされているウコギのほとんどは中国原産のヒメウコギで、自生している範囲が狭いエゾウコギの食用利用は一般的ではありません。
摂取する際の注意点
高麗人参やエゾウコギには、摂取する際にいくつか注意すべき点があります。また、妊婦や小さい子供は、安全性についての十分なデータがないため、摂取を控えるべきとされています。
好転反応
高麗人参やエゾウコギなどを摂取すると、稀に体調不良の症状が起こる場合があります。これは身体が回復に向かう際に起こる正常な身体の反応で、東洋医学では「好転反応」と呼ばれます。
こうした反応は通常1-2週間で治まります。飲み始める際は、身体の調子をみながら少しずつ摂取すると良いでしょう。症状が治まらなければ、医師に相談することをお勧めします。
薬との相互作用に注意
病気の治療などで薬を服用している場合は、高麗人参やエゾウコギの成分が相互作用を起こす危険性があるため、特に注意が必要です。
併用を避けるべき薬のひとつに、ワーファリンがあります。ワーファリンは血栓症の治療薬で、血液を固まりにくくする作用があります。このため、血行促進効果のある高麗人参やエゾウコギと併用すると、万が一の出血時に血が止まりにくくなります。
こうした危険性があるため、薬を服用している場合は、高麗人参やエゾウコギを摂取する前に必ず医師に相談してください。
エゾウコギの注意点
エゾウコギを摂取すると、稀に動悸や高血圧などが生じることがあります。このため、ドイツの薬用植物の評価委員会は、エゾウコギを高血圧患者に使用しないよう指示しています。
また、女性ホルモンと似た生理作用をもつ成分が含まれているため、乳がんや子宮がんなどの患者は摂取してはいけません。
エゾウコギはこれまでの利用や研究から安全性が高いとされていますが、稀に精神不安や筋肉の痙攣などが起こるケースが報告されています。エゾウコギを飲み始める際は、身体の調子をみながら少量ずつ摂取しましょう。
まとめ
エゾウコギは「シベリア人参」とも呼ばれますが、高麗人参との類縁関係は薄く、成分にも大きな違いがあります。高麗人参が古くから薬として広く利用されてきた一方で、エゾウコギの効果が特に注目されるようになったのは1960年代以降のことです。
エゾウコギの利用や研究の歴史は浅いですが、高麗人参と同じく数多くの健康効果が確認されています。その一方で、美容効果を目的とした利用や食品としての利用は、エゾウコギに関してはあまり行われていません。
高麗人参とエゾウコギは、成分や効果、利用法が異なる薬用植物です。これらが使用されたサプリメントなどを購入する際は、効果を比較したうえで、自分にあったものを選ぶことをお勧めします。