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乳がんと高麗人参の関係

高麗人参特有の成分であるジンセノサイドには、がん細胞の増殖を抑制する作用があることが、多くの研究で報告されています。しかし、一般的には「乳がん患者は高麗人参を使用してはならない」とされています。
乳がん患者が高麗人参を摂取すべきでないのは、どういった理由からなのでしょうか。乳がんと高麗人参の関係について解説します。

乳がん患者に使えない理由はエストロゲン様作用

一般的に、乳がん患者は高麗人参を使用してはならないとされています。これは、高麗人参に含まれる成分に、女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをするエストロゲン様作用があるためです。

・乳がん細胞の増殖にはエストロゲンが関係している

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乳がん細胞の60-70%は、女性ホルモンのエストロゲンの影響によって増殖します。
乳がん細胞の中にはエストロゲン受容体と呼ばれる受け皿があり、この受容体にエストロゲンが結びつくことで、がん細胞の増殖が促進されます。こうしたエストロゲンに反応して増殖する乳がんは、「ホルモン感受性乳がん」と呼ばれます。
乳がん細胞の多くがエストロゲンに反応して増えるため、乳がんの治療に際してはエストロゲンの働きを抑制することが重要とされています。

・高麗人参の成分にはエストロゲン様作用がある

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植物の根・茎・葉などには、苦味のもとになるサポニンと呼ばれる成分が含まれています。サポニンには多くの種類があり、高麗人参特有のサポニンはジンセノサイドと呼ばれます。

ジンセノサイドには数多くの種類があり、その中には、体内で女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをするエストロゲン様作用をもつものがあります。
乳がん患者に高麗人参を使用してはならないとされている理由は、このエストロゲン様作用をもつ成分が、乳がん細胞の増殖を促進する恐れがあると考えられているためです。

・エストロゲン様作用が多くの実験などで確認されている

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乳がんの培養細胞に対して特定のジンセノサイドを投与したところ、乳がん細胞の増殖が促進されたとする多数の実験報告があります。
また、高麗人参を摂取した影響で、乳房の痛みや閉経後の膣出血、男性の乳房の肥大などがみられたという事例の報告があります。こうした症状は、高麗人参のエストロゲン様作用によるものと考えられています。
さらに、高麗人参は更年期障害の症状改善に効果的なことで知られており、更年期障害は閉経前後にエストロゲンの分泌量が急減することで起こります。このため、高麗人参の成分にエストロゲン様作用があり、ホルモンバランスの乱れを抑制することで更年期障害の症状を緩和していると考えられています。

高麗人参の成分にエストロゲン様作用があることが、こうした実験や事例によって確認されています。

・一般的に高麗人参は乳がん患者に使用してはならないとされている

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こうしたエストロゲン様作用があるため、一般的に乳がん患者は高麗人参を摂取すべきでないとされています。
代替医療や薬用植物の第一人者であるアンドルー・ワイル博士の著書にも、「子宮筋腫や乳がんなどのエストロゲン依存性疾患の女性は、高麗人参を摂取すべきでない」との内容が記載されています。
また、国立健康・栄養研究所の『「健康食品」の安全性・有効性情報』においても、高麗人参について、「エストロゲン様作用があると思われるので、乳がん・子宮がん・卵巣がん・子宮内膜症・子宮筋腫など、ホルモン感受性疾患がある患者は使用してはならない」と記載されています。

このように、高麗人参はエストロゲン様作用をもつため、乳がん患者は摂取すべきでないとされています。しかし、近年の研究においては、こうした意見と相反する研究結果が多数報告されています。

高麗人参が乳がんを抑制するという研究報告がある

従来の意見とは異なり、近年の研究では、高麗人参に乳がん細胞の増殖を抑制する効果があるとする報告が多数行われています。

・高麗人参の成分はエストロゲン受容体に影響しないとする研究報告がある

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2001年に発表された研究において、更年期障害の治療に用いられている各種植物のエストロゲン様作用を調べる実験が行われました。その結果、ほかの植物のいくつかは、エストロゲン受容体と結合して細胞分裂を活性化することが確認されました。しかし、高麗人参はエストロゲン受容体との結合が認められず、エストロゲンの刺激で誘導される細胞分裂を促進しなかったことが報告されています。
この実験結果によれば、高麗人参のエストロゲン様作用はエストロゲン受容体を介したものではなく、乳がん細胞の増殖を促進しないと考えられます。

・乳がん細胞の増殖を抑制するという多くの研究報告がある

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乳がん細胞の培養液に高麗人参のエキスを投与したところ、エキスの濃度が高まるほど細胞の増殖を阻害する作用のあるタンパク質が増加し、乳がん細胞の増殖が抑制されたとする研究報告が多数あります。さらに、乳がんの治療に用いられる薬と高麗人参を併用したところ、乳がん細胞の増殖を抑制する薬の効果が高まったことが報告されています。

・ジンセノサイドの代謝産物は乳がん細胞の増殖を抑制する

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口から摂取されたジンセノサイドは、腸内細菌の働きによって代謝された後で体内に吸収されます。このため、体内でのジンセノサイドの作用を調べるには、ジンセノサイドそのものよりも、ジンセノサイドの代謝産物を使用するのが適切だとする意見があります。

このジンセノサイドの代謝産物を乳がん細胞に投与したところ、エストロゲンの刺激によって増殖する乳がん細胞の分裂が顕著に抑制され、乳がんを抑制する作用が確認されたとする実験報告があります。
また、抗エストロゲン作用があり、乳がんの治療に用いられる薬品にタモキシフェンがあります。このタモキシフェンとジンセノサイドの代謝産物を併用したところ、タモキシフェンの抗がん作用が強まったことが報告されています。

・大規模な追跡調査でも乳がんに対する効果が確認されている

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中国の上海において、乳がん患者が補完医療として高麗人参を使用した場合と使用しなかった場合を比較して、生存率と生活の質に対する高麗人参の影響を調べた研究が行われました。この研究では、1,455名の乳がん患者を対象に、1998年3月から2002年12月まで追跡調査が行われ、そのデータが分析されています。
その結果、日常的に高麗人参を摂取していたグループは、一度も高麗人参を摂取したことがないグループと比較して、乳がんによる死亡率や再発率が3割程度低かったことが報告されています。
こうした研究からも、乳がんを抑制する高麗人参の効果が示唆されています。

以上のように、高麗人参の成分に乳がん細胞の増殖を抑制する作用があるとする多くの研究報告があります。これは、「乳がん患者に高麗人参を使ってはならない」とする従来の意見とは全く逆の結果です。
現在までのところ、乳がんに対する高麗人参の効果については明確な結論がでておらず、未だ研究段階です。

エストロゲン様作用がエストロゲンの働きを弱める場合もある

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高麗人参だけでなく、エストロゲン様作用をもつ植物成分は多く存在しており、代表的なものに大豆イソフラボンがあります。こうした植物成分のエストロゲン様作用は、エストロゲンの働きを強めるだけでなく、場合によっては弱めることもあります。

・エストロゲンが過剰な場合はその効果を弱める
エストロゲンは、卵巣から分泌された後、受け皿となるエストロゲン受容体と結合することで機能します。体内のエストロゲンが不足している場合は、エストロゲン様作用をもつ植物成分がエストロゲンの代わりに受容体と結合し、エストロゲンの作用を補助します。逆にエストロゲンが過剰な場合は、エストロゲンよりも先に植物成分が受容体と結合することで、エストロゲンと受容体との結合を阻害します。
エストロゲン様作用といっても、植物成分の作用はホルモンのエストロゲンと比較すると非常に弱いものです。このため、体内のエストロゲンが過剰な場合は、植物成分のエストロゲン様作用はエストロゲンの効果を相対的に低下させます。

・エストロゲン様作用があっても乳がんを抑制する場合がある
エストロゲン様作用がある代表的な成分に大豆イソフラボンがあります。
以前は大豆イソフラボンが乳がん細胞の増殖を促進すると考えられており、乳がん患者は大豆製品を食べない方が良いとされていました。しかし、中国で行われた大規模な追跡調査によって、大豆イソフラボンの摂取量が多いほど乳がんの発症リスクが低下するという調査結果が得られています。
こうした研究により、現在では乳がんなどのエストロゲンに関係する疾患の患者でも、大豆製品を摂取して問題ないと考えられるようになっています。

今後の研究の進展によっては、高麗人参の摂取も問題ないと結論付けられる可能性があります。しかし、現在までのところ、高麗人参の乳がんに対する影響は明らかになっていません。

進行した乳がん患者の治療には高麗人参を使った漢方薬が利用されている

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高麗人参の乳がんに対する影響は未だ研究段階であり、一般的には乳がん患者は高麗人参の使用を控えるべきとされています。しかし、乳がんを含む進行したがん患者の治療には、高麗人参を使った漢方薬が利用されています。

・がんによる体調不良の改善に高麗人参が効果的
がんが進行すると、貧血や食欲不振、気力の減退、倦怠感などの症状が発生します。また、抗がん剤や放射線治療によって、骨髄障害や肝障害、免疫機能の低下なども起こります。
高麗人参は古くから万能薬として利用されており、倦怠感を取り除いて身体に活力を補う高い効果があります。また、赤血球の増殖を促進して貧血を改善する効果や、肝臓を健康に保つ効果、免疫力を高める効果などの多くの健康効果があります。
このため、進行したがん患者の体力維持や症状改善のために、高麗人参を含んだ漢方薬が利用される場合があります。

・高麗人参を使用した漢方薬の効果が実験で確認されている
進行したがん患者に使用される漢方薬には、「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」や「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」があります。これらは倦怠感や食欲不振の改善効果で知られる漢方薬であり、材料として高麗人参が使用されています。
がんの手術後の化学療法や放射線治療にこれらの漢方薬を併用したところ、免疫力の低下や倦怠感などの副作用が軽減され、患者の生活の質が向上したとする多くの研究報告があります。
また、放射線治療の副作用の抑制に「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」が効果的とする研究報告があります。人参養栄湯はその名の通り、材料として高麗人参を使用した漢方薬です。

・抗がん剤使用中の高麗人参の摂取は問題ない
乳がん患者に高麗人参を使用していいのかと思われるかもしれませんが、抗がん剤による治療中は、高麗人参の摂取は問題ないと考えられています。
抗がん剤は、がん細胞が細胞分裂する過程に影響を及ぼし、がん細胞の成長に必要な物質の生成を妨げ、あるいは過剰に生成させることでがん細胞を死滅させます。このため、増殖が活発な細胞ほど抗がん剤は効果的です。仮に高麗人参に乳がん細胞の増殖を促進する作用があったとしても、抗がん剤を使用中であれば問題ありません。

乳がんに対する高麗人参の影響は結論がでていない

乳がんと高麗人参の関係について解説してきました。
乳がんに対する高麗人参の効果については、乳がん細胞の増殖を促進するという研究報告と、増殖を阻害するという研究報告がともに多数あり、結論がでていません。

・乳がんに対する高麗人参の効果は未確定
高麗人参の成分は、腸内細菌によって代謝された後に体内で作用するため、体内での正確な影響を試験管内の細胞実験で調べることは困難です。乳がん患者に高麗人参を摂取させる実験は倫理上の問題から難しく、現在までのところ、高麗人参の乳がんへの影響については未だ研究段階です。

・高麗人参の摂取は自己判断せず医師の判断を仰ぐべき
病気の治療に際しては、安全性の確認が不十分なものは使用しないという原則があります。このため、乳がんなどのエストロゲンに関する疾患の患者は、高麗人参の使用に十分注意すべきであり、一般的には使用を控えるべきとされています。

ただし、抗がん剤による治療中など場合は、高麗人参を含んだ漢方薬の利用が推奨されるケースもあります。乳がんなどのエストロゲンに関係する疾患の患者は、高麗人参の使用を自己判断することなく、必ず医師に相談して、その判断に従うようにしてください。

まとめ

乳がん細胞の増殖には女性ホルモンのエストロゲンが関与しており、高麗人参の成分には体内でエストロゲンと似た働きをするエストロゲン様作用があります。このため、一般的に乳がん患者は高麗人参を摂取すべきでないとされています。
しかし、近年の研究では、高麗人参には乳がん細胞の増殖を促進する作用はなく、逆にがん細胞を減らす作用があることが報告されています。乳がんに対する高麗人参の効果については諸説あり、現在までのところ結論がでていません。
乳がんなどのエストロゲンが関係している疾患の患者は、高麗人参の摂取を自己判断すべきではありません。高麗人参を摂取する前に必ず医師に相談して、その指示に従うようにしてください。

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