高麗人参とワーファリンの併用に注意
高麗人参は、高い健康効果や美容効果をもつ薬草として古くから広く利用されてきました。高麗人参の成分には毒性がなく、安心して長期間摂取できるという特長があります。しかし、病気の治療などで薬を服用している場合には、高麗人参の成分が薬の効果を強めたり、逆に弱めたりしてしまう場合があります。ワーファリンは、高麗人参との相互作用に注意すべき薬の代表例です。
ワーファリンとは
・ワーファリンは血栓を防ぐ薬
ワーファリンは、血液を固まりにくくして血栓を防ぐ薬です。
血液には、血管が傷ついた際に、凝固して血液の流出を止める作用があります。その作用が強くなりすぎると、出血していないのに血が固まって血管を塞いでしまい、血流が止まって酸欠による組織の損傷が起こります。
ワーファリンは、血液を凝固させる作用のあるビタミンKの働きを阻害して、血栓ができるのを防ぎます。ワーファリンは、静脈血栓症・心筋梗塞・肺塞栓症・脳塞栓症などの治療や予防に広く用いられています。
・ワーファリンの使用には十分な注意が必要
ワーファリンは、使用に細心の注意が必要なことで知られています。用量が少ないと血栓ができてしまう一方で、多すぎると出血時に血が止まりにくくなり、内出血や内臓疾患の原因になります。
また、ワーファリンの効果に影響を及ぼす薬品や食品成分の種類が多く、そうした成分と一緒に摂取すると、効果が強まったり弱まったりして、治療に悪影響が及ぶ場合があります。
高麗人参に限らず、薬やサプリメントなどをワーファリンと併用する場合には、事前に医師に相談することが重要です。
高麗人参とワーファリンの関係
・高麗人参の血行促進効果がワーファリンの効果に影響する
血行を促進する作用のある成分とワーファリンを併用する際には、特に注意が必要とされています。血行促進は身体の健康増進にとても効果的ですが、ワーファリンの効果と組み合わさると、万が一出血した際に血が止まりにくくなる恐れがあります。
高麗人参には、血管を拡張する成分や血液をサラサラにする成分が豊富に含まれており、高い血行促進効果があります。このため、ワーファリンとの併用には十分な注意が必要です。
・高麗人参がワーファリンの効果を弱めるとする報告もある
高麗人参には高い血行促進効果があるため、ワーファリンの効果を強めると考えるのが自然です。しかし、高麗人参がワーファリンの効果を弱めたとする報告もあります。
ワーファリン服用中の47歳の男性が高麗人参を2週間摂取したところ、血液が固まりやすくなり、高麗人参の摂取を止めたところ症状が治まったとの報告があります。
また、ワーファリン服用中の58歳の男性が高麗人参を摂取したところ、血液の固まりやすさが不安定になり、血栓症が起こったとの報告があります。
こうしたワーファリンの効果を弱める作用が起こった理由については、明らかになっていません。
さらに、これらの研究報告がある一方で、ワーファリンと高麗人参を併用しても血液の固まりやすさに変化が認められなかったとする研究報告も複数あります。
・ワーファリンと高麗人参を併用する場合は医師に相談
このように、ワーファリンと高麗人参との明確な関係性は明らかになっていません。
しかし、これらは血液の流れに大きな影響を及ぼすため、相互作用による健康への悪影響が起こる可能性があります。そうした悪影響を避けるために、両者の併用には十分な注意が必要です。
ワーファリンと高麗人参を併用したい場合は、自己判断せず、必ず医師に相談してその指示に従うようにしてください。
ワーファリンの作用に関係する高麗人参の成分
高麗人参には、身体の血行を促進する成分が豊富に含まれています。こうした成分がワーファリンの効果に影響を及ぼすため、ワーファリンとの併用には十分な注意が必要です。
・血液をサラサラにする成分
高麗人参には、血液をサラサラにして固まりにくくする成分が含まれています。
高麗人参特有の成分であるジンセノサイドには、タンパク質分解酵素のプラスミンの働きを活性化する作用があります。プラスミンには血栓を溶かす作用があり、血液を固まりにくくします。また、ジンセノサイドには、脂質の代謝を促進して血液中の脂質を減少させる作用もあります。
高麗人参にはアミノ酸のアルギニンも豊富に含まれており、アルギニンには成長ホルモンの分泌量を増やす作用があります。成長ホルモンには脂質の代謝を促進する作用があり、血液をサラサラにします。
・血管を拡張する成分
高麗人参には、血管を広げて血流量を増やす作用のある成分も含まれています。
アルギニンは、体内で一酸化窒素を生成する材料になります。一酸化窒素は、血管周辺の筋肉を弛緩させて、血管を拡張するシグナルとして機能する物質です。アルギニンには高い血行促進効果があります。
アミノ酸のグリシンにも、血管を拡張する作用があります。グリシンを就寝前に摂取すると血行が良くなって体内の熱が放出され、寝つきが良くなることが知られています。
さらに、ミネラルのマグネシウムには、動脈を弛緩させて血流をスムーズにする作用があります。
このように、高麗人参には血行を促進する成分が豊富に含まれています。こうした成分は、ワーファリンの作用に影響する恐れがあります。ワーファリンと高麗人参を併用したい場合は、自己判断せず必ず医師に相談してください。
ワーファリンは効果が持続する
血液を固める作用のある血液凝固因子の多くは肝臓でつくられ、生成にはビタミンKが必要です。ワーファリンには酵素に働きかけてビタミンKの利用を妨げる作用があり、血液凝固因子の生成を抑制します。これにより、血液が固まりにくくなります。
こうした血液凝固因子の生成には時間がかかるため、ワーファリンを飲み始めてから効果が現れるまでには3-4日かかります。また、ワーファリンの服用を中止しても、4-5日程度は血が止まりにくくなる効果が持続します。
ワーファリンの服用を中止してもしばらくの間は、ほかの薬や食品との相互作用に気をつけ、出血しないように十分注意する必要があります。
ワーファリンとの併用を避けるべき食品成分
高麗人参のような血行を促進する食品以外にも、ワーファリンとの併用を避けるべき成分や食品があります。
・ビタミンK
ワーファリンは、血液を固める作用のあるビタミンKの働きを抑制することで血液を固まりにくくします。このため、ワーファリン服用時にはビタミンKを多く含む食品の摂取は固く禁止されています。
ビタミンKを特に多く含む食品には、納豆・クロレラ・青汁・抹茶などがあります。また、ほうれん草や明日葉などの緑色の野菜や海藻類にもビタミンKが多く含まれているため、これらを食べ過ぎないよう注意する必要があります。
・セントジョーンズワート
セントジョーンズワートはセイヨウオトギリとも呼ばれ、うつ症状や不眠症状に対して効果的とされるハーブです。セントジョーンズワートにはワーファリンを代謝する酵素の働きを活性化する作用があり、ワーファリンの効果を弱めてしまいます。このため、両者の併用は避けるべきとされています。
ワーファリンを服用している場合は、こうした成分や食品の摂取にも注意が必要です。
高麗人参との併用に注意すべき薬
高麗人参には、ワーファリン以外にも併用に注意すべき薬や成分があります。
こうした薬や成分との相互作用を避けるために、病気の治療などで薬を服用している場合は、高麗人参を摂取する前に必ず医師に相談するようにしてください。
高麗人参と相互作用を起こす可能性のある薬や成分をいくつかご紹介します。
・アスピリン
アスピリンは、古くから利用されている解熱鎮痛薬です。炎症や腫れを軽減して、痛みや発熱を抑える作用があります。
アスピリンには、ワーファリンと同じく血液を固まりにくくする作用があります。このため、血行促進効果をもつ薬品や食品成分と併用すると、血が止まりにくくなる恐れがあります。実際に、アスピリンなどの医薬品と高麗人参を併用していた人が、手術中や手術後に大量に出血した事例が報告されています。
アスピリンやワーファリンに限らず、血液を固まりにくくする作用のある薬を服用している場合は、高麗人参の摂取に十分な注意が必要です。
・アセトアミノフェン
アセトアミノフェンは、パラセタモールとも呼ばれる解熱鎮痛薬です。体温を調節する中枢に働きかけて熱を下げる作用や、痛みを和らげる作用があり、発熱・頭痛・寒気などの症状改善に利用されています。一般用医薬品の風邪薬にも広く使用されている成分です。
アセトアミノフェンを500mg服用した2時間後に、高麗人参をアルコールに浸したエキスを摂取したところ、激しい頭痛が起こり脳動脈炎と診断されたケースが報告されています。
アセトアミノフェンを含む薬を服用する場合は、高麗人参の摂取を控えるか、念のため事前に医師に相談するようにしてください。
・糖尿病・高血圧・うつ病などの治療薬
古くから万能薬として利用されてきた高麗人参には、血糖値を下げて糖尿病を予防・改善する効果や、高くなりすぎた血圧を抑制する効果、精神を安定させる効果などの多くの健康効果があります。このため、糖尿病・高血圧・うつ病などの治療薬と併用すると、その薬の効果を過度に強めてしまう場合があります。
薬は効きすぎると逆に健康に悪影響を及ぼします。こうした病気の治療薬に限らず、薬と高麗人参を併用する場合は、事前に医師に相談することが大切です。
・葛根湯
葛根湯は、特に風邪のひき始めに効果的な漢方薬です。葛根湯は身体を温めることで発汗を促し、風邪による熱を下げます。また、炎症を抑える作用もあり、鼻炎や頭痛、肩こりなどの炎症による急性疾患の治療にも利用されています。
ともに高い効果をもつ漢方薬の葛根湯と高麗人参ですが、両者の相性は悪く、併用すると動悸などが起こる場合があります。葛根湯を飲む場合は、高麗人参との同時摂取は避けて、両者の摂取の間に少なくとも2-3時間の間隔をあけることが推奨されています。
・大量のカフェイン
カフェインはコーヒーや紅茶、緑茶などに含まれており、世界で広く利用されている精神刺激剤です。通常の摂取量であれば問題はありませんが、高麗人参と一緒に大量に摂取したところ、健康への悪影響が起こった事例が報告されています。
43歳の女性がカフェインと高麗人参を6ヶ月間大量に摂取したところ、心臓の機能に異常が起こり、6ヶ月の間に2回失神したことが報告されています。
また、1日あたりコーヒーを4-6カップ、タバコ20本、高麗人参1,000-1,500mgを7ヶ月間摂取し、高麗人参を使った美容用品を多く利用していた39歳の女性に、不整脈や機能性子宮出血の症状が起こったことが報告されています。
市販されているエナジードリンクの中には、大量のカフェインが含まれているものもあります。高麗人参を飲んでいる場合には、カフェインを過剰摂取しないよう注意しましょう。
・カリウム摂取量の制限を受けている場合も注意
高麗人参には、ミネラルのカリウムが豊富に含まれています。カリウムには体内の余計なナトリウムを排出する作用があり、高血圧やむくみの予防・改善にとても効果的な成分です。
カリウムを多く摂取しても、腎臓の働きによって体外に排出されるため、通常は問題になりません。しかし、腎臓の機能が低下していると余分なカリウムが排出されず、健康に悪影響が及ぶ場合があります。
腎臓病の治療などでカリウムの摂取量が制限されている場合は、高麗人参を摂取する前に、必ず医師に相談するようにしてください。
高い安全性が確認されている高麗人参
高麗人参との併用を避けるべき薬や成分をご紹介してきました。健康状態が悪化した多くの事例を挙げてきましたが、高麗人参自体には健康に害を与える成分は含まれていません。
高麗人参には高い効果をもつ成分が豊富に含まれているため、そうした成分が薬や食品成分の効果を強めたり弱めたりすることで、結果的に健康への悪影響が発生する場合があります。高麗人参は、高い安全性が確認されている健康食品です。
・高麗人参の安全性は長い歴史によって確認されている
約2000年前に記された中国最古の薬物書『神農本草経』には、長期間摂取しても健康に害のない最高ランクの薬として、高麗人参が紹介されています。また、「長く服用すれば身体を軽くし、寿命を延ばす」効果があるとも記載されています。
高麗人参の高い安全性は、長年にわたる知識と経験によって確認されています。
・高麗人参の成分には毒性がない
現代の研究でも、高麗人参の成分に毒性がないことが確認されています。
植物には苦味のもととなるサポニンと呼ばれる成分が含まれており、高麗人参にもジンセノサイドと呼ばれるサポニンが豊富に含まれています。
サポニンの中には、大量に摂取すると身体に悪影響を及ぼすものがあります。生薬の桔梗や柴胡(さいこ)などに含まれるサポニンは、大量に摂取すると赤血球の膜が溶ける溶血作用や吐き気を引き起こす場合があります。
高麗人参に含まれるジンセノサイドには、こうした毒性がないことが研究で確認されており、安心して摂取できます。
まとめ
高麗人参との併用に注意すべき薬にワーファリンがあります。ワーファリンには血液を固まりにくくする作用があり、高い血行促進効果をもつ高麗人参と併用すると、健康に悪影響を及ぼす恐れがあります。
高麗人参は安全性の高い健康食品ですが、ワーファリンのような特定の薬や成分と相互作用を起こして、その効果を強めたり弱めたりする場合があります。病気の治療などで薬を服用している場合は、高麗人参を摂取する前に必ず医師に相談して、その指示に従うようにしてください。